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東京地方裁判所 平成3年(特わ)2745号 判決

本店所在地

東京都中央区京橋三丁目七番五号

松平商事株式会社

(右代表者代表取締役 松平重夫)

国籍

韓国

住居

東京都杉並区梅里二丁目二四番一七号

会社役員

松平重夫こと裵相烈

一九二六年一月一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官立澤正人、弁護人丸山利明各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社松平商事株式会社を罰金一億二〇〇〇万円に、被告人裴相烈を懲役二年に処する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社松平商事株式会社(以下、「被告会社」という)は、東京都中央区京橋三丁目七番五号(住居表示変更前の本店の所在地は同区京橋三丁目一一番地)に本店を置き、不動産の賃貸及び有価証券の売買等を目的とする資本金五〇〇万円の株式会社であり、被告人松平重夫こと裴相烈は、被告会社の代表取締役として被告会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人裴は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産賃貸料収入の一部を除外するとともに、仮名及び借名により株式売買を行い、その売買益の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和六三年三月一日から平成元年二月二八日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一三億六二八二万一九三五円(別紙1修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成元年四月二八日、同区新富二丁目六番一号所轄京橋税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が九三一万五三七九円で、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書(平成四年押第三六二号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額

五億七一四二万四八〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書(九通)

一  三宅敏弘、小田直哉、和山一竜、和山君子、坂爪明夫、浜田弘美、鈴木博、神田直行、柳田幸子、上南孝、児玉武志、鈴木昭雄、堀江茂彦、原田三洲夫、窪田陽一、桝田恵美子、山崎拓司、飯田昌男、関本昌吾、相良泰子(二通)、室伏幸司、中村泰三、荒川浩平、桝田昌子の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の受取家賃調査書、株式売買益調査書、水道光熱費調査書、修繕費調査書、ポテトクラブ勘定調査書、受取利息調査書、受取配当金調査書、支払利息割引料調査書、事業税認定損調査書、申告欠損金調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(八通)

一  検察事務官作成の電話聴取書

一  登記官作成の商業登記簿謄本及び閉鎖商業登記簿謄本

一  大蔵事務官作成の領置てん末書

一  押収してある法人税確定申告書(元/2期)一袋(平成四年押第三六二号の1)

(法令の適用)

一  罰条

被告会社 法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)

被告人 同法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人 懲役刑を選択

(量刑の理由)

本件は、不動産の賃貸等を目的とする被告会社の代表者である被告人が、被告会社の業務に関し、不動産賃貸料収入の一部を除外したり、仮名及び借名により株式売買を行い、その売買益の一部を除外するなどの方法により法人税を免れたという事案である。

本件は、単年度で五億七〇〇〇万円余を免れたというもので、そのほ脱額が多いことはもとより、ほ脱率も一〇〇パーセントとなっていること(この点につき、弁護人は、被告会社が青色申告が認められていれば累積欠損金を当期で繰越決算し、被告会社にほ脱所得は発生しなかったことを酌むべき一事情として主張するが、右は被告会社が不正な経理処理を行っていたため青色申告承認取消処分を受けた結果のものであるから、これを有利な情状として斟酌することは相当ではない。)、犯行の動機は、さらに株式取引を行って大きく儲け、その利益で過去の株式取引によって生じた損失を取り戻すため、その資金を確保しようとしたにすぎず、酌量の余地がないこと(この点につき、弁護人は、本件は、専ら被告会社を破産から守るために欠損金の穴埋め及び債務の軽減を意図したもので、被告人には一片の私利私欲もなく、動機において悪質とはいえないとするが、被告会社の出資者は被告人のみでその利益も損失もいずれ出資者である被告人に還元されるのであるから、被告人の私利私欲に基づく結果のもので、この点を特に被告会社や被告人のために有利に斟酌すべきものではない。)、犯行の態様は、仮名及び借名により株式売買をしたり、受取家賃や受取利息等を除外し、支払利息割引料等の経費を過大計上するなど多岐にわたり、計画的であること、さらに、被告会社はこれまで昭和四七年、同五九年に国税局の査察調査を受け、いずれも賃貸料収入の除外が発覚し、昭和六三年には税務調査において同様の指摘を受けながら、またも本件犯行に及んでいるのであって、被告人には適正な経理処理に心掛け、誠実に申告納税する意識が希薄であることがそれぞれ認められる。以上の諸事情に鑑みると本件犯情は悪質で、その責任は重いというべきである。

しかしながら、被告人は、査察の段階から自己の非を素直に認め、今後誠実に申告を行い、二度と脱税しない旨誓い、反省の情を示していること、被告会社は、修正申告をして、本税については既に完納し、未納となっている附帯税については自社所有のビルを売却してその代金で納付しようと鋭意努力していること、株式取引の累積赤字等により多額の債務を抱え、事業も立ち行かなくなった状態にあること、被告人においては、労苦を重ね、在日韓国人社会において成功者の評価、名声を得て、大韓民国からは国民勲章を授与されるまでに至りながら、本件により、右評価を一挙に失墜するなど社会的制裁を受けていること、被告人が服役することになると骨粗鬆症などの疾患があり、かつ腰背部の痛みのため起居が不自由な妻の介助に少なからず支障をきたすこと、被告人は、萎縮性胃炎などを患い、その治療中であって健康がすぐれないことなど酌むべき事情も存する。

以上の各事情のほか、その他諸般の事由を勘案し、その刑の量定をした。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑・被告会社に対し罰金二億円、被告人に対し懲役二年六月)

(裁判長裁判官 伊藤正髙 裁判官 朝山芳史 裁判官 渡邊英敬)

別紙1 修正損益計算書

〈省略〉

別紙2 脱税額計算書

〈省略〉

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